東京高等裁判所 平成11年(ネ)6325号 判決 2000年8月17日
控訴人 大久保健一
右訴訟代理人弁護士 藤本えつ子
被控訴人 国際信販株式会社 (旧商号 池田商事株式会社)
右代表者代表取締役 佐藤三夫
右訴訟代理人弁護士 阪岡誠
同 滝田裕
主文
一 原判決主文第一項を次のとおり変更する。
被控訴人から控訴人に対する横浜地方法務局所属公証人山口和男作成平成四年第二八七号金銭消費貸借契約公正証書に基づく強制執行は、金四億一六二四万三四四一円及びこれに対する平成四年五月二一日から同年六月一一日まで年一割五分の、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による金員を超える部分については、これを許さない。
二 訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
三 第一項記載の公正証書に基づく強制執行は、金四億一六二四万三四四一円及びこれに対する平成四年五月二一日から同年六月一一日まで年一割五分の、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による金員を超える部分につき、この判決が確定するまで、停止する。
四 この判決は、前項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を次のとおり変更する。
被控訴人から控訴人に対する横浜地方法務局所属公証人山口和男作成平成四年第二八七号金銭消費貸借契約公正証書(本件公正証書)に基づく強制執行は許さない。
2 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
控訴棄却
第二事案の概要
一 本件は、被控訴人を債権者、控訴人を債務者とする本件公正証書につき、控訴人が執行力の排除を求める事件である。本件については、一審判決である原判決に対して、控訴人が控訴を申し立て、差し戻し前の控訴審判決がなされ、これに対して控訴人が上告を申し立て、上告審判決がなされた。
二 この上告審判決は、その主文において、差し戻し前の控訴審判決の審判の対象について、その一部についての上告を棄却し、その残りについて差し戻し前の控訴審判決を破棄し、その部分の審理を当裁判所に差し戻した。
三 本件公正証書には、被控訴人が控訴人に対して、平成四年五月二一日、一〇億二〇〇〇万円を貸し渡したとの記載がある。しかし、右同日、控訴人と被控訴人との間に成立した契約は、控訴人が被控訴人に負っている旧債務(元本及び利息)を目的とした準消費貸借契約(本件準消費貸借)と、右同日、被控訴人が控訴人に対して二七一万五五六〇円を貸し付けた消費貸借契約の混合契約である。
四 本件準消費貸借の目的である旧債務の元本は、原判決別紙貸付金一覧表の番号11、13ないし16、18ないし24の各「貸付元本」欄記載の金額合計二億四〇〇〇万円及び同一覧表の番号25ないし38の「契約時現金交付額」欄記載の金額合計七〇七五万八〇〇〇円であり、その総合計額は、三億一〇七五万八〇〇〇円である。
五 上告審判決が上告を棄却した部分は、本件準消費貸借の旧債務の元本である三億一〇七五万八〇〇〇円と新たに貸し付けられた二七一万五五六〇円を合計した三億一三四七万三五六〇円及びこれに対する利息、損害金の部分について、執行力の排除を求める控訴人の請求を、原判決及び差し戻し前の控訴審判決が棄却した部分である。
六 右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の第二記載のとおりであるから、これを引用する。
(当審における控訴人の主張)
1 本件準消費貸借の元の貸金は、貸金業法一三条の過剰融資の禁止違反であり、無効である。
2 本件準消費貸借の元の貸金は、貸金業法四三条一項のみなし弁済の要件欠如により、一部消滅している。
3 本件準消費貸借の元の貸金は、貸金業法二〇条の白紙委任状の取得の制限の違反があり、無効である。
4 本件準消費貸借の元の貸金の金額に影響する事由については、計算違い、見落しなどの誤りがある。
5 本件準消費貸借の元の貸金の半分ほどは、控訴人が違法な賭博資金に充てるためのものであり、被控訴人もその事実を熟知していたから、不法原因給付に当たり、その返還を求めることができない。控訴人は、これを知らずに元利を支払ってきたので、支払った利息一億五六五七万七〇〇〇円の概ね半額に相当する七八二八万八五〇〇円が非債弁済となり、被控訴人に対してその返還請求権を有する。よって、控訴人は、被控訴人に対し、七六四七万九二五〇円の返還請求権をもって控訴人の未払債務と対当額で相殺する。
第三当裁判所の判断
一 上告棄却部分の既判力
本件上告審判決により、差戻前の控訴審判決は、当裁判所に差し戻された部分を除いて、確定した。すなわち、本件準消費貸借の旧債務の元本である三億一〇七五万八〇〇〇円と平成四年五月二一日に新たに貸し付けられた二七一万五五六〇円とを合計した三億一三四七万三五六〇円及びこれに対する平成四年五月二一日から平成四年六月一一日まで年一割五分の、同月一二日から支払済みまで年三割の各割合による利息、損害金については、控訴人が求める執行力の排除の請求が棄却され、これが確定している。
この確定力(既判力)は、直接には、その部分について公正証書の執行力が存在することを確定するものである。しかし、執行力は債権の存否範囲と直結しているのであるから、右の既判力は、執行力のみならず、債権の存否範囲についても生じるものと解するのが相当である。
二 当審における控訴人の主張について
右のように上告審判決で、差し戻し前の控訴審判決が部分的に確定しており、その既判力は、本件準消費貸借の旧債務の元本三億一〇七五万八〇〇〇円を対象として準消費貸借債権が存在することに及ぶ。
控訴人が当審でする主張は、結局、右のとおり既判力で確定した準消費貸借債権が存在しないことをいうものである。しかし、その債権が存在することは、すでに既判力により争えず、当裁判所は、その債権が存在する旨判断しなければならないのであるから、控訴人の右の主張は、これを採用することができない。
三 当裁判所の審判の対象
したがって、差戻後の当審における審判の対象は、本件準消費貸借中の旧債務の利息の残額である。そして、上告審判決は、
1 差戻前の控訴審判決が、原判決一覧表の番号11、13ないし16、18ないし24の各「貸付元本」欄記載の金額合計二億四〇〇〇万円に対する平成元年八月一二日から平成二年八月七日までの利息について、年五四・七五パーセントで算定した判断と、
2 原判決一覧表の番号38の貸付に対する利息制限法所定の最高限度の利率で計算した平成四年五月二〇日までの利息を、同月二一日に成立した本件準消費貸借の目的に含め、これに対しても利息制限法所定の最高限度の利率による利息、損害金を付した判断を違法としたものである。
四 利息の残存額の計算
右部分について、上告審判決の判断に従った計算をして、本件各貸付の利息の残存額を求めると次のとおりとなる。なお、本件各貸付につき、控訴人が被控訴人に支払った利息が原判決利息支払一覧表のとおり合計一六七二万七〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
すなわち、本件各貸付における年五四・七五パーセントの利息の約定は、利息制限法所定の制限利率を超える限度で無効であり、この限度で利息債権は存在しないものといわざるを得ない。原判決一覧表の番号11、13ないし16、18ないし24の各「貸付元本」欄記載の元本に対する平成元年八月一二日から平成二年八月七日までの利息をそれぞれ年一五パーセントで計算する。
そして、貸付後一年未満の利息制限法の最高利率によって計算される利息については、これを元本に組み入れる重利の契約は利息制限法によって無効であると解するべきである。そこで、原判決一覧表の番号38の貸付(平成三年一一月二〇日貸付)についての利息は、平成四年五月二一日の本件準消費貸借契約の日には、元本に組み入れることができない(右利息債権は、本件準消費貸借について作成された本件公正証書の執行力の対象外であって、本件の審理の対象外となる。控訴人は、本件公正証書とは別個に被控訴人に支払うべきものとなる。)。
このような計算方法によって、本件各貸付(ただし、右38番の貸付を除く。)につきその残存利息の合計額を計算すると、別紙「残存貸付金一覧表」の*3の符号が付けられた金額一億〇二七六万九八八一円になる。
五 結論
右の利息の残存額一億〇二七六万九八八一円もまた準消費貸借の目的となったのであるから、これに既判力で確定している債権の額三億一三四七万三五六〇円を加えると、本件公正証書で被控訴人が執行できる金額は、四億一六二四万三四四一円及びこれに対する平成四年五月二一日から同年六月一一日まで年一割五分の、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による金員となる。
したがって、本件公正証書に基づく強制執行につき、原判決が、五億一〇七〇万四〇六五円とこれに対する平成四年五月二一日から支払済みまで年三割の割合による金員を超える部分のみの執行力を排除したのは一部失当であり、これを、四億一六二四万三四四一円及びこれに対する平成四年五月二一日から同年六月一一日まで年一割五分の、同月一二日から支払済みまで年三割の割合による金員を超える部分の執行力を排除すると変更すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 西島幸夫 原敏雄)
<以下省略>